東京高等裁判所 昭和59年(う)307号 判決
所論は,要するに,(1)原審弁護人の「被告人の足払いを掛けた程度の行為は暴行罪の構成要件には該当しないものと解すべきであり,仮に該当するとしても自救行為ないし正当行為である。」旨の主張に対する判断を遺脱した原判決には刑訴法335条2項の規定に違反する理由不備の違法ないし訴訟手続の法令違反があり,(2)原審弁護人の右主張が不明確であるとすれば,原審においてこの点を釈明すべきであったのに,かかる措置を取らず,かつ,被告人の本件所為につき実質的違法性を欠く不可罰的行為,もしくは自救行為又は正当防衛行為ないし過剰防衛行為と認めなかった原判決は,審理不尽の違法を犯し,ひいて事実を誤認したものであり,右違法ないし誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである,というのである。
所論にかんがみ,記録を調査して検討するに,まず,(1)については,所論構成要件に該当しない旨の主張が刑訴法335条2項により判断を示すべき事項に当たらないことは明らかであり,また,自救行為ないし正当行為の主張に対し原判決が判断を示さなかったことは所論のとおりであるから,この判断遺脱が同条同項の規定に違反することは言うまでもないが,右は刑訴法379条にいわゆる訴訟手続に法令の違反がある場合に該当するものと解すべきところ(右の判断遺脱は判決に理由を附さない場合には当たらない。),本件において被告人の所為が自救行為ないし正当行為といえないことは証拠上明白であり,原審弁護人の右主張は理由がないから,原審がこれに対する判断を示さなかった違法は,結局において判決に影響を及ぼすものではないと見るべきである。次に,(2)については,原審弁護人の主張が所論のように不明確であるとは解せられないから,釈明の必要があるとはいえず,また,記録を調べても,被告人の本件所為が不可罰的行為又は自救行為若しくは正当防衛行為ないし過剰防衛行為とは到底認められない。以上の次第であって,論旨はいずれも理由がない。